新型コロナ対策で注目 台湾のIT担当大臣 オードリータン氏から学ぶこと

世界中で新型コロナウイルスの感染拡大がまだまだ収まらない中、アジアの”ある国”では、100日連続で新規感染ゼロ*の記録が出てきました。まるで違う世界に存在しているかのような「台湾」は、流行初期の段階から迅速に国内のマスクを確保し、政府から国民へ感染状況と対策方法を毎日こまめに報告していました。その中で一番注目されたのは、政府と民間で協力して作った「マスクマップ」です。そのマップを手掛けたのが、いま最も注目されている若きIT担当大臣、オードリー・タン氏(以下「オードリー氏」と称する)です。

*「100日連続感染ゼロ」は海外から帰国した人を除く

新型コロナウイルス対策の優等生
「台湾」で一番注目されたマスクマップ

台湾は過去の「SARS」の経験から、感染症においてマスクはとても重要だということを知っています。当時コロナウイルス感染が起きた時に、政府はすぐにマスクを買い上げ、実名制で販売することにしました。同時に、オードリー氏は民間のエンジニア協力者と一緒に、店舗の在庫状況が自動的に更新されるマスクマップを作りました。いつ、どこで、確実にマスクを入手できるのかを可視化したため、国民を安心させ、公平にマスクを購入できるようになりました。その後、さらにマスクマップをグレードアップし、アプリやインターネットで予約販売もできる「eMask 2.0」という、より便利なシステムも開発しました。

このマスクマップはオードリー氏が一人で作ったというより、オードリー氏の働きかけで、政府と民間の両方が力を合わせた結果でした。そして、このマップは台湾国民だけではなく、海外のメディアにも高く評価されました。

天才IT担当大臣と言われたオードリー・タン氏が注目された理由は

マスクマップだけではなく、オードリー氏が国際的に注目されたのには他にも多くの理由があります。

特殊かつ多彩な経歴

オードリー氏は小さい頃から頭がとてもよくて、8歳でプログラミングに興味を持ち、独学で学び始めます。その後、学校の伝統的な教育方式には合わず、14歳で中学を中退し、それからは家でプログラミングを独学で学んでいました。そして、わずか10代のうちに起業家になり、自分の事業を持ちました。その後、米アップルやBenQ(ベンキュー)など世界的に有名な企業の顧問を担当しました。33歳の時に引退したのですが、代わりに社会の公共領域と市民活動におけるテクノロジーコミュニティに力を入れました。

35歳の時に、当時の行政院長林全氏に内閣の政務委員に任命され、デジタル担当の政務委員に就任しました。35歳での閣僚就任は台湾史上最年少でした。さらに、一般の公務員と違って、デジタル大臣を担当しながら、同時にいくつもの国際的な非営利団体の理事も担当し、複数の仕事や肩書を持ち、台湾でとても流行っている「スラッシュ族*」と言われています。さらに、24歳の時にトランスジェンダーであることを明かし、元々の男らしい名前(中国語表記:唐宗漢)を女性らしい名前(中国語表記:唐鳳)にしました。英語名では、今の「オードリー・タン」という、男女どちらでも使える名前にしたのです。経歴のデータシートの性別欄に「無」と記入していることも一度話題になりました。

*スラッシュ族とは複数の仕事や肩書を持っている人の総称です

台湾の政府に新しい風を吹かせた

オードリー氏の内閣入閣のきっかけは、「政府に異質なDNAを入れたい、新しいアイデアを生むような人材が欲しい」と考えた、当時の行政院長林全氏が誘ったことでした。当時、オードリー氏が内閣に入るのに出した条件は3つあり、とても話題になりました。その3つの条件とは、「リモートワークができると」、「命令を受けない、命令もしない」、そして「携わっていることは全ての情報を徹底的に透明化する」ということです。その中の「リモートワーク」はまさに内閣に前例がなく、政府に新しい風を吹かせました。さらに「携わっていることを徹底的に透明化する」ことは、政府と国民が同じような立場でお互い交流・監督するということであり、とても評価されました。

謙虚、ハイEQという人柄

2019年に米雑誌の「世界の頭脳100」(100 Leading Global Thinkers)に選ばれたオードリー氏が注目されたのは、頭の良さだけではなく、その人柄でしょう。マスコミにマスクマップで評価された時に、「これは政府と民間が協力した結果」と答えた謙虚さ、そして多くのオンライン会議やセミナーでいつも厳しい質問をされる時も、ユーモアのある神対応ができるハイEQ*。そのような人柄もよく語られています。頭の回転が早く、話す内容も分かりやすいため、1時間の講演なのに、2時間聞いたような充実した内容だとよく賞賛されています。

*EQは「Emotional Intelligence Quotient」の略。日本でいう「こころの知能指数」のこと。

自分の信念を表す「ハッカー文化」

オードリー氏はあるインタビューで「ハッカー文化」について語っていました。
有名なアメリカのプログラマ兼作家のエリック・レイモンド氏は「ハッカーになるための方法(How To Become A Hacker)」というエッセイを書いたことがあります。この本には「ハッカーは何か新しいものを創造することであり、目の前の問題を解決し、そして自由と共有の価値を信じることである。」とあります。そして、そのエッセイの中に5つハッカーの大事な心構えがあり、これらはオードリー氏にとって個人的な信念であると語っています。

1、この世界は解決を待っている魅力的な問題でいっぱいだ。
2、同じ問題を二度解くような無駄はいらない。考えた解決方法を共有することが必要だ。
3、退屈で単純な作業は人間の時間を費やすのではなく、機械で自動化するべき。
4、自由と透明性を追求する。どんな形の全体主義にも反対する。
5、心構えは技能の代用にはならない。自分の知恵や鍛錬え、努力を実現し、お互いに学んでいく。

公務員の体制に入り、オードリー氏はハッカー文化のDNAを少しずつ日常の行政体制に取り込んでいます。確かに、オードリー氏が手掛けたプロジェクトや社会問題の解決はこの信念で実行されていると感じます。

また、オードリー氏は毎年「g0v零時政府*」で「総統杯ハッカソン」(中国語表記:總統盃黑客松)というイベントの招集者として携わってきました。「ハッカソン」は「ハッカー」と「マラソン」を掛け合わせた言葉です。このイベントに多くの人を集め、みんなの「知恵」と「私利私欲のないリソース」の共有で、一つひとつ社会をよくするものを作っています。このようにみんなの知恵を集め、デジタルやプログラミングの力で社会や公共問題に取り組むのがオードリー氏の日常です。

*「g0v零時政府」は政府の政策や公共問題の討論、解決にあたって重要である情報公開と自由の精神を堅持するコミュニティです。

社会をよくするヒントはオードリー・タン氏から学べ

今回の新型コロナウイルス拡大状況において、「天才のIT担当大臣」として注目されたオードリー・タン氏ですが、単純に「天才IT担当大臣」と表現するより、「国民と政府の力を繋ぐ架け橋」と表現する方がよりオードリー・タン氏の役割を表すことができるでしょう。ハッカーの信念を実現しつつ、オードリー・タン自身が持っている新しい風を世界中に吹かせることを期待しています。みんなの力で、社会そして世界をより良くするのはこれからです。

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