グローバルタレント育成の謎と矛盾

グローバル人材育成、グローバル人材になる、というキーワードが少し前に流行った。今は一時期の大流行が去り、少し沈静化しているように思える。グローバル人材という単語を聞くときにそもそもの疑問がある。グローバル人材をきちんと定義できている場合が非常に少ない。グローバル人材を求める企業はグローバルな市場で戦う、もしくはグローバル市場を目指している企業であるが、今どきグローバル市場を無視して事業を展開できる企業の方が少ない。その場合は企業のマネジメントは大なり小なりグローバル人材である必要がある。外資系のグローバル企業でグローバル人材という単語を聞く機会は少ない。それはそうである。グローバル企業で昇進する、マネジメントを担える人材は必然的にグローバル人材だからである。残念ながらグローバル人材を潤沢に育成できている日本企業は少ない。

現在のマネジメントポジションにこういったグローバル人材が多い企業もある。そういった企業は高度成長期に海外市場開拓、海外拠点設立といった仕事をゼロからやる経験に恵まれた人々が一定数いた。当然ながら失敗、撤退も多くあった。ただそこでの失敗と成功から学んだ人材は世界で貴重な経験を積むという機会に恵まれた。いまの日本企業では海外拠点は現地人に任せるという流れになってきている。企業特有のお作法、本社の考え方を理解できていて事業運営に支障がでないのであれば現地の仕事は現地人に任せるほうが理にかなっている。ただしこれは日本人にとっては海外拠点で働くという機会自体が減ってきていることを意味する。また海外に行ったとしても、外国語が苦手、異文化環境での対処といったことは日本人は必ずしも得意で無いため持っている能力を発揮しきれず、最大限の経験を積むことも出来ない。加えて昔と違い事業運営も確立されているので前任者がやったことをそつなくこなすことが目的となりがちである。つまり「お客さん」扱いである。もちろん計画的にグローバル人材を育成できている企業もあるが数は少ない。

一方で外国人を雇いグローバル人材に育てるという方向性もある。これも特殊な一部の人々を除き日本企業で働きたいと思う外国人の母数はそんなに多くない。グローバル人材に期待されているのはグローバルに事業を担うことのできる人材であり、つまり有能でマネジメントまで登っていく意思がある人材だろう。リクルートの管理職5カ国比較調査がある。日本は課長昇進、部長昇進は他のアジア諸国と比べて10歳前後遅い。優秀人材は大学卒業後もMBAを含む大学院で更に知識・スキルを磨く。そして当然昇進を望み、かつ転職ではなく社内で昇進を望む。優秀な外国人人材が昇進も遅い日本企業を選ぶ理由があるだろうか。

加えて2017年の日経新聞に掲載されていたデータとなるが、給与も課長までは日本企業の方が高いが部長以上になるとシンガポール、中国に抜かれ取締役レベルになるとベトナムも抜かれ表の5カ国で最低レベルとなる。この状況では外国人の優秀人材を惹きつけるのは非常に難しいと言わざるを得ない。年功序列を基盤とした硬直的な人事・報酬制度がこの大きな要因と考えられる。これも実際には少しづつ変わってきているが世界の変化に追いついているとは言い難い。

そうすると日本人の優秀人材をグローバル人材へと引き上げる必要がある。ただし日本企業には年功序列と横並び意識が非常に強いという文化がある。若手優秀人材を引き上げて育成しようにも上には分厚い年配層がいて、その人々を追い越した抜擢人事は難しい。加えて外の経験を積ませることにも及び腰である。留職といった海外の企業で短期間働くことや、日本のスタートアップ企業で働きながら異なる経験を積ませるという選択肢も増えてきているが、外部企業への派遣後の退職リスクを考えるとなかなか一歩を踏み出せない企業が多いのが実情である。故に必要人材を外部から獲得するケースが選択肢となる。実際に重要ポジションに外部人材を採用するケースが増えている。ヒューレット・パッカードとマイクロソフトの社長を歴任し古巣パナソニックの役員となった樋口泰行氏などは有名なケースである。

グローバル化という言葉が陳腐化しているほどに市場、事業だけでなく個々人のキャリアもグローバル化している。将来について不確実性が増す世界において、自らのキャリアをどう構築するかはもう会社依存ではなく、個人が主体的に選んでいく時代になってきた。どんなキャリア選択肢にもリスクは伴う。ただし主体的に動くほうがリスクのコントロールはできるし、またリスクの幅も自分で選ぶ事ができる。一つ言えることはグローバルな世界で戦うには早期から自分のキャリアを考え、スキルを磨き、また継続して自らをアップデートしていく必要があるということだ。その時が来てから考えるのでは遅い。今将来を見据えて動き出す必要がある。

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