以前「CFOの採用について」という記事で、上場を導くCFOを採用するにはどのような人物を対象にしていけば良いのか、に焦点を当てた。今回は少し切り口を変え、CFOは上場後にどのようなキャリアを歩んでいるのだろうか?という点に焦点を当てたい。
読者の方々は上場を経験したCFOが、その後どのようなキャリアを歩むと想像しているだろうか。「上場後、さらなる企業成長を後押しし、東証二部・東証一部に鞍替えだ!」と意気込む様子をイメージしている人もいるだろう。しかし実は、CFOは上場後に転職する、あるいは転職する可能性が大いにあるのである。他にもCFOのキャリアについて意外なことが分かった。ではCFOのキャリアについて詳しく見ていこう。
上場後の転職の割合
まずはこのデータを見て頂きたい。過去20年間の情報通信・サービス業においてマザーズに上場した企業に所属するCFO209人を対象に上場後の転職の有無について調査した結果だ。
上場後に転職したCFOは34.6%(72名)、転職しなかったCFOは65.4%(136名)という結果になった。これだけを見ると、転職していないCFOの方が多いように思える。果たして本当にそうなのであろうか。CFOのキャリアについて可視化するため、実際に転職したCFOはどのような企業を選んでいるのか、転職しないCFOの共通点はなにか、さらに深堀りして調査を行った。
上場経験後に転職したCFOのキャリア
転職したCFOは実際にどのようなキャリアを歩んでいるのだろうか。転職先の比較や業種、さらに上場後してからどのくらいの期間で転職するのかという点に着目した。
転職先の比較
まず、転職先の企業が上場企業、未上場企業、その両方の3つに分けて比較を行なった。転職先が2社以上かつ上場企業、未上場企業どちらも選んでいるCFOを「両方」とおいている。転職先に上場企業を選んでいるケースが多そうだが、どのような結果になったのだろうか。
上場後に転職したCFOの約89%は未上場企業を選んでいるという意外な結果が分かった。一方、既に上場した会社のみを転職先に選んでいるCFOは4.2%だけだった。また、上場企業、未上場企業どちらも転職先に選んでいるCFOは7%であった。このことから、多くのCFOは上場後の転職先として未上場企業を選んでいることがわかる。つまり、上場した企業に留まりさらなる企業の成長・規模の拡大を目指すといったキャリアよりも、もう一度未上場企業で上場を目指していきたい、というキャリアを考えている可能性が高いのである。
転職先の未上場企業の業種
次に転職先企業の業種について調査を行なった。
やはり、情報・通信/サービスを選んでいるケースが約7割を占めていた。円グラフ中の「2業種以上」というのは転職先が2社以上かつ業種も2業種以上を表しているが、この中にも情報・通信/サービスを選んでいるCFOが多く存在する。本人が同じ業種を選択しているということもあるが、企業側も同業種で上場を経験したCFOを採用したいといったニーズが高いことが分かる。
上場後の在籍期間について
さらに上場してから転職するまでの期間について調査を行なった。結果としては、上場後の在籍期間が1年以内は約27%、2年以内は52%、3年以内は73%、4年以内は82%、5年以内は94%となった。なんと、上場してから転職する人々の大半は5年以内で次の企業に転職しているのだ。これらのことから、転職したCFOのキャリアとしては上場してから5年以内で、情報・通信/サービスの未上場企業を選んでいるという事実が分かった。
上場してから転職していないCFOのキャリアについて
冒頭の調査で、転職する人々よりも転職していない人々の割合が多くなったが、果たして彼らは本当に転職しないのか。上場後の在籍期間、および転職経験という点から考えた。
上場後の在籍期間について
上場してから転職していないCFOの上場後から現在までの在籍期間について調べたところ、上場後から現在までの在籍期間が1年以内は30%、2年以内は60%、3年以内は80%という結果になった。つまり上場してから現在まで3年も経っていないケースが8割を占めるのである。
転職経験の有無
では転職していない人々が上場した企業に勤める前から転職経験はないのか。転職経験が無いから、転職自体を考えていないのか。転職していないCFOを対象に上場前の転職の有無について調べた。
上場後に転職していないCFOの多くは、転職経験が少なくとも1回以上あることが分かった。そのため、転職自体に抵抗があるわけではない。つまりこの二つのことから、上場してからまだ3年もたっていない、あるいは3年しかたっていない場合でも、CFOが転職する可能性は大いにあるといえる。
多くの上場企業CFOが5年以内に自身のキャリアについて、見つめ直し、転職を選んでいる
今回の調査結果をまとめると、以下3つのポイントとなる。
- 転職した上場企業CFOの約94%は、上場後5年以内に転職
- 転職した上場企業CFOの約89%は、転職先として同業種の未上場企業を選択
- 転職していない上場企業CFOの約80%は、上場後5年未満の在籍
以上のことから、現時点で転職していないCFOについても、今後数年以内に転職する可能性が高い、ということが推察される。また、転職を考えるCFOの多くは、次のキャリアとして再び未上場企業を選択し、自身が上場に導いた経験をもとにキャリアに厚みを持たせたい、と考えているのではないだろうか。上場という「一つの節目」を迎えたCFOにとって、また現在進行形で社外にもチャンスを見出そうとしているCFOにとって、この調査結果が役立てば幸いである。